立ち上げ期

 

 ダンボール箱に母材を入れて、準備が整いました。生ごみを投入していよいよ始まりますが、その立ち上げ時期の検討です。

1温暖期
2寒冷期
3堆肥の活用

1温暖期

 次のグラフを見てください。これは日々生ごみを投入してから約24時間の母材の温度変化を示したものです。一番下の線が一日目、それから上へ二日目、三日目、四日目、五日目と五本の線を示しています。この時の母材はヤシ殻と燻炭です。入手したヤシ殻ブロックは極端に水分の少ない状態にあります。推測ですが、加熱処理されているものと思われます。燻炭も空気の少ない状態で加熱して造られます。したがって、いずれも通常の土壌に比べて微生物がかなり少ない状態だったと思われます。

 この温度曲線の中で五日目の線が、今後、堆肥化を進めるときの通常のカーブに近く、24時間のうち前半に温度のピークがあり、それを過ぎると温度は低下していくというパターンをとります。ところが三日目の曲線が典型的ですが、途中にピークがなく、最後まで温度が上昇しています。実は一日目も二日目も四日目もピークがなく、24時間後の温度が一番高くなっています。そして一日目から四日目に向かって全般的に温度が高くなっています。母材の表面には一日目は目視では確認できませんでしたが、二日目以降には下の写真のように盛大に糸状菌が発生していました。

 これは次のような状況を示しているものと思われます。即ち、最初は母材の温度も25℃程度で菌の活動も活発というにはまだ低く、また、菌の数も少ないために生ごみの分解も少なく、温度はなかなか上昇しません。しかし、少しずつ菌は増殖し、分解の量も増えていき温度が上昇していきます。そうすると微生物の活動もさらに活発になり、後半になるほど温度が上昇します。こうした状況を四日間続けていたと考えられます。五日目は母材の温度も上がってきており、菌の活動も活発化し、十分に増えた菌が投入された生ごみを一斉に分解し始めます。そのために急に温度が上昇します。ところがある程度分解が進むと、増殖によってさらに増えた菌に対して残っている生ごみの量が少なくなってくるので、すべての菌が分解に寄与できなくなってきます。発熱量よりも伝熱で失われる熱や、温度が高くなってきたために起きる水分の蒸発に伴って失われる潜熱のほうが大きくなって徐々に温度が低下していきます。即ち、発熱量が勝っていたところから失われる熱の量のほうが大きくなるところに温度曲線のピークが生じます。

 五日目に最高温度もほぼ50℃に達し、ここから通常の堆肥化に入っていくことになります。

 最後に付け加えますと、この母材には最初に特に水を加えていません。ヤシ殻ブロックを崩すときに入れた水のみです。したがって母材は適正な含水率より水分が少なかった可能性があります。そのことも一日目に微生物が活発でなかった理由と考えられます。しかし、生ごみはその重量の80~90%は水分であるともいわれます。生ごみが分解されて発生した水分はまだ母材温度が低いため、蒸発することなく、母材にため込まれます。ここに示した初期過程ではその水分の蓄積が五日目あたりで丁度適正に達した可能性も考えられます。

 温暖期でも立ち上げには五日程度かかっています。母材の準備ができて生ごみを入れたら、いきなり50℃や60に達するということではありません。

 なお、棒状温度計で一日一回温度を測っている場合は、母材の温度が20℃以上で始めたのであれば、母材がベチャベチャで含水率が過剰でなく、攪拌を毎日行っていれば、徐々に温度も上昇し、やがて通常の堆肥化過程に入っていける温度に達していくものと思われます。

2寒冷期

 寒い時はどうなるでしょうか。寒冷期の立ち上げ時のグラフを示します。

 このグラフには8本の温度曲線が示されています。本来は一番下の線①の下にさらに3本の線があるのですが煩雑になるので省略しています。それらの温度曲線は①と同じで18℃から始まって20℃に届くかどうかという状態で、これから温度がどんどん上がっていくだろうとは期待できません。母材の温度が20℃そこそこでは微生物や菌は活発には活動できないということを実地で教えられました。なにか別の方法で母材の温度を上げる必要があります。

 PETボトルに温水を入れて、箱の四隅に立ててみました②。母材は洗濯ネットに入っているので、ネットをめくることでボトルを入れることができます。②で出発時の温度が急に上がっているのはPETボトルからの暖気の影響でしょうが、微生物が活動をはじめ、温度が上昇していると認められます。24時間後ボトルの水は冷えていますが、母材はその温度より高くなっているようです。③も同じように温度は上がりますが、35℃は越えません。④になると明らかに③よりは高く38℃近くまで温度が上がりました。これでいけるだろうと⑤でPETボトルを入れなかったら、④のようには温度が上がりません。慌てて途中でボトルを入れた結果、後半でようやく温度上昇がみられました。寒冷期では箱の外部の温度が低いために、奪われる熱量が多く、温度が上がらないことを示しているものと思われます。思い直して最初からPETボトルを入れて始めたのが⑥,⑦です。明らかに前より温度は上がってきましたが、まだ45℃に達していません。最後の⑧は米ぬかの温度上昇効果に期待して、生ごみに米ぬかを加えたものです。その結果やっと50℃を越えることができました。

 このあとはPETボトルに頼らず、堆肥化作業を続けることができましたが、寒冷期の初期立ち上げで、温水PETボトル、米ぬかという補助を使っても実質八日間もかかってしまうという悪戦苦闘の顛末でした。

 これはダンボール箱を室内に置いての事です。屋外に置いていると、もっと周囲は冷えることですから、立ち上げは一層困難になるのではないでしょうか。

3堆肥の活用

 三番目の例はすでに堆肥が手元にある場合です。ダンボール箱を利用した生ごみ堆肥化を既にやっている場合はその堆肥を活用することができます。最初から母材に微生物をある程度加えておこうという狙いです。冬の終わり、春が近づいてきたころの事例です。

 母材はヤシ殻10ℓ、もみ殻燻炭3ℓ、そこにこれまでに作った堆肥2ℓを加えました。生ごみを投入しながら、日々の最高温度をプロットしたグラフを示します。

一日目の母材は出発時点で20℃以下でしたが堆肥を加えた効果で何とかなるかと思いましたが、やはり20℃以下ではいくら堆肥を入れていても微生物は動かないということを確認しただけでした。二日目は先の寒冷期の例を生かして、温水を入れたPETボトルを箱の四隅に入れました。生ごみの分解が始まり母材は30℃を越えました。その後五日目までは温水PETボトルを入れています。五日目に最高温度は50℃を越えてきました。六日目はPETボトルなしで57℃になりました。以降はもはや通常の生ごみ投入のやり方で順調に進むようになります。この過程で五日目には糸状菌の発生も確認できています。

 この事例でも、①母材の温度が低ければ、何らかの方法で別途母材の温度を上げてやらないと、微生物の活動は活発化しないこと、②堆肥を入れていても六日目(最初の一日目を除けば実質五日目)程度は立ち上げ期間としては必要で、結果的には温暖期と同程度の日数がかかるということでした。

 後日、温暖期であれば、堆肥を加えれば、もっと簡単に立ち上げができるかどうかを示せる機会があればと思っています。

 これまでの「ダンボールコンポスト」の本やネット情報では、立ち上げ期の方法について特に取り上げて問題にされることはなかったように思われます、しかし、それは通常期の方法と同じではなく、それなりの注意を払いながら進める必要があることを上記の例は示しているようです。




乙女椿
2025年3月